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【ゲキサカ】プロ入りはゴールではない…明治大サッカー部が金融教育に取り組む理由、変わるJリーグ新人契約と若者に必要な「失敗」の経験


プロサッカー選手になることは、多くの大学生が追いかけてきた夢の一つだ。厳しい競争を勝ち抜き、Jリーグクラブとの契約を手にする。しかし、その夢をかなえた先の人生について、どれだけ具体的に考えられているだろうか。

プロ入りによって収入が大きく変わる選手がいる。活躍すれば、さらに高額な契約を結ぶ可能性もある。一方、競技生活がいつまで続くかは誰にも分からない。ピッチ上では将来を見据えて努力を重ねてきた若者たちも、お金との付き合い方については、これから学ばなければならないことが多い。

大学サッカーの名門・明治大が、そんな学生たちにサッカーとは異なる学びの場を設けている。

明治大サッカー部は、金融サービスを手がける株式会社ファーストパートナーズの協力で、3年連続して金融リテラシーセミナーを実施した。

金融教育と大学サッカー。一見すると距離のある二つのテーマだが、その結びつきは以前よりも強くなっている。

明治大サッカー部で金融セミナーが開催された

■変わる新人契約、池上監督が考える大学教育の役割

背景のひとつにあるのが、Jリーグの新人契約制度の変化だ。

2026年から従来のプロA、B、C契約の区分が撤廃され、新人選手の基本報酬の上限は年額1200万円に引き上げられた。支度金や出場給、勝利給などを含めれば、プロ入り初年度から2000万円程度の報酬を得る選手が現れる可能性もある。

若い選手の待遇が改善されることは、競技の魅力を高めるうえでも歓迎すべき変化だ。ただ、その一方で、社会経験の少ない若者が突然、大きなお金を扱うことにもなる。明治大の池上寿之監督が問題意識を持つのは、まさにその部分だ。

大学時代は生活の多くをサッカーに費やしていても、プロになれば競技以外の判断を迫られる。税金や資産管理はもちろん、収入が増えれば周囲から投資話などを持ちかけられることもある。活躍によって契約条件が変わり、移籍などで収入が増える可能性がある一方、怪我や契約満了によって生活環境が一変することもある。

サッカーの能力が高いことと、自分の財産を適切に管理できることは別の話だ。だからこそ、大きなお金を手にする前に、判断するための知識を持っておく必要がある。

ただ、セミナー自体は将来のJリーガーだけを対象にしたものではない。

明治大は日本代表として活躍してきた長友佑都ら、100人以上のプロ選手を輩出してきた。その一方で、歴代の指導者が受け継いできたのが「プロの養成所ではない」という考え方だ。

サッカーで結果を残すことだけが、大学で過ごす4年間の目的ではない。卒業後にプロの世界へ進む学生もいれば、一般企業に就職する学生もいる。進む道は違っても、社会の中で自ら考え、判断する力が必要になることは変わらない。金融教育は、そうした人間形成の一環でもある。

■「若いうちは失敗した時の金額が少ない」

セミナーでは物価上昇や資産形成の仕組み、長期的な視点で投資を考える重要性などが取り上げられた。学生たちは身近な商品やサービスを手がかりに、企業の将来性についても議論した。

普段、何気なく利用しているものが、どのような企業によって生み出されているのか。その企業はなぜ成長してきたのか。これからも成長を続けられるのか。株式投資について考えることは、同時に社会の仕組みに目を向けることでもある。

過去のセミナーをきっかけに、NISAを利用した資産運用を始めた部員もいた。学んだ知識が、実際の行動につながった例だ。

ただ、今回の取材で特に印象に残ったのは、お金を増やす方法ではなかった。ファーストパートナーズの中尾剛代表取締役社長が語ったのは、若いうちから経験を積むことの大切さだった。

「若いうちは、失敗したときの金額が少額なんですよ」

若いうちなら数万円で済むかもしれない失敗も、35歳、40歳になって十分な蓄えができてからでは、数千万円の損失につながる可能性がある。ましてや、60歳になって退職金を手にしてから初めて大きなお金を動かすとなれば、失敗を取り戻す時間も限られる。だからこそ、中尾社長は「時間を味方につけること」の重要性を説いた。

もちろん、無理に投資を始めたり、損失を経験したりすることが目的ではない。今回のセミナーでも、長期・積立・分散という資産形成の基本や、金融トラブルへの注意点が取り上げられていた。大切なのは、知識を持ったうえで自分に必要な選択をすることだ。

■3年目の学び、小泉佳絃が考える将来への投資

セミナーを始めて3年目を迎えた明治大サッカー部。初年度から受講してきた学生たちにとって、金融教育は一度きりの経験ではなくなっている。

青森山田高出身のDF小泉佳絃(3年)もその一人だ。高校時代には全国高校サッカー選手権で日本一を経験。2028年ロサンゼルス五輪への出場も期待され、卒業後のJリーグ入りも決定的となっている。しかし、お金については学んでいる途中の大学生の一人でもある。

小泉が今回のセミナーで改めて感じたのは、目先の欲だけでなく、長期的な視点でお金の使い方を考えることの大切さだった。

「学年が上がって受けてみると、お金は長期的に見れば自分の将来に投資するための資金になると思いました。前回とは違って、深く考えられたと思います」

以前はお金をうまく貯められればいいという程度の認識だったという。それが学年を重ねるうちに、貯めたお金を自分の将来にどう生かすかという考え方へと変わってきた。

その変化は、サッカー選手としての日常にも重なる。小泉自身、食事やパーソナルトレーニングなど、自分の成長につながることにお金を使っている。将来のために、今の自分に何が必要なのか。競技生活の中では、すでにそうした選択を重ねている。

目指すのはプロ入りだけではない。その先には海外でプレーするという目標もある。ただ、将来得る収入を何に使うのかについては、まだ具体的なイメージがあるわけではない。「使うべき時にしっかり使って、お金を大事にしたい」。家庭を持つ可能性なども考えながら、自身の将来像を思案している。

プロ入りを果たした先にも、人生は続いていく。そして、それはプロにならない学生にとっても同じことだ。

サッカー選手としての成長を追い求める4年間に、社会で生きていくための学びを重ねる。明治大が続けてきた金融教育には、競技の成績だけでは測れない大学スポーツの役割が表れている。

(取材・文 児玉幸洋)

引用元記事(ゲキサカ)

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