栃木県・矢板市を拠点に活動する矢板SCは、矢板中央高校と連携しながら中学生年代の育成に力を注ぐクラブチーム。
チームを指導する高橋 祐樹コーチにインタビューを行いました。
セレクションの難しさ、成長の見極め、日々の取り組みから見えてくる選手育成の本質。
選手はもちろん、保護者の方にも読んで欲しいインタビューです。
お話を聞いた人
矢板SC 高橋 祐樹コーチ
指導歴
2019年4月~
矢板SCコーチ
矢板中央コーチ
選手経歴
矢板中央高校~ヴェルフェたかはら那須
矢板中央高校キャプテン
2007年インターハイ出場
第86回全国高等学校サッカー選手権大会出場
2008年埼玉インターハイ出場
2012年 国体出場 選手(成年)
2013年 国体出場 選手(成年)
「自己分析できる選手は頭一つ抜けている」
ーーー矢板SCではセレクションを行っていますね。どんな選手に注目するのでしょうか?
高橋
何かひとつでも光る特徴を持っている選手に注目しています。たとえば足が速い、身長がある、ドリブルが得意、視野が広いなど、サッカーにおける武器になる部分です。その特徴にさらに磨きをかけて、3年間、もしくは高校の矢板中央まで6年間を通して活躍できる選手を育てていきたいと思っています。セレクションでは、そういった素材を探すという視点で見ています。
「武器を磨く」ってすごく大事なことだと思うんです。
たとえば、ある選手がドリブルに長けていたとして、そのスキルにさらに磨きをかけていけば、高校に進んだとき、たとえば矢板中央高校で日本一を目指すチームの主力になれる可能性だってあります。
もちろん、武器がない選手なんていないと思っています。ただ、その武器に自分自身が気づいていて、ちゃんとプレーで表現できる選手っていうのは、どこに行っても輝けるし、指導者の目にも留まります。だからこそ、練習会やセレクションの場で自分の強みをしっかり出せることが、とても重要だと思っています。
ーーー自分のアピールポイントを知っているかどうかは、大きな違いになりますか?
高橋
自分のプレーを理解していないと、強みを出すこともできませんし、プレーの判断にも迷いが出ます。
だからこそ、自己分析ができる選手というのは、すでに頭ひとつ抜けていると思います。
毎年全国大会で結果を出しているようなチームの選手たちには、やっぱり『ちょっと違うな』っていう印象を持つことがあります。
自分のプレーを理解していて、強みを活かす方法を分かっている。そういう選手は、限られたプレー機会でもしっかりと自分を表現できるんです。
ただもちろん、うまくアピールできない選手もいます。でもそういうときは、私
たち指導者が“このプレーは良かったな”と思った部分をしっかり拾って、選手に声をかけるようにしています。
うまくいったこと、いかなかったこと、その両方を見たいと思っています。
ーーーメンタルや性格面はどのように見ていますか?
高橋
サッカー選手にとって、メンタルの強さは非常に重要です。性格には個人差がありますが、たとえば少しコミュニケーションが苦手な選手でも、ピッチ上で光るものがあれば、しっかり見極めて獲得します。そして、その選手の課題に対してはクラブとして一緒に向き合っていく体制を整えています。
「3年後には挑戦できる選手になっていてほしい」
ーーーセレクションで選ぶ立場として、やはり難しさはありますか?
高橋
難しいですね。
今ちょうど(※)練習会をやっているところなんですが、中学生と小学生を一緒にプレーさせて、“中学生ってこういうレベルなんだよ”とか、クラブの環境や雰囲気を実際に見てもらう場にしています。
最終的に“このクラブに入りたい”と思ってもらえるような場づくりを目指しているので、練習会は指導者にとってもすごく大事な時間なんです。
ただ、選ぶというのはやっぱり難しくて…。セレクションって限られた時間の中で選手を見極めなければならないので、毎回本当に悩みます。
今年に関しては、特にセレクションの時期が早かったのでまだ体格も発達途上の選手が多いことが想定されます。夏以降に一気に伸びてくる選手も少なくないと思うので伸びしろをしっかりと見極めようと思います。
※2025年6月25日、インタビュー当時
──セレクションの時期は年々早まっていますね。
高橋
県外のクラブも全体的にセレクションの時期が早まっています。今年は特にそう感じますね。
時期を早めることで、より多くの選手にクラブを知ってもらい、関心を持ってもらえる機会を増やしたいという思いがありました。
6年生を対象としてた練習会も始めています。
ホームページで募集をかけて、だいたい25〜26人が参加してくれています。
練習会を通して実力やサッカーに対する姿勢を見た上で、セレクションへの参加につなげてもらうようにしています。
セレクションは一応、6月30日を一区切りとしていますが、小学生は夏以降に一気に伸びる選手もいるので、確定ではないですが、状況を見て夏以降にもう一度セレクションを実施できたらとは考えています。
ーーー矢板SCに入りたいと考える小学生が、今のうちから意識して取り組んでおくとよいことはありますか?
高橋
うちのクラブは「矢板中央」の存在もあり、ちょっと敷居が高く見られてしまいがちです。
でも私たちは、「どんな選手でもまず受けに来てほしい」という気持ちが強いです。
日ごろから矢板SCのトレーニングや試合を見て、“ここでやってみたい”と感じてもらえるようにしたい。そのためには、こちらから積極的にメッセージを出すことが大事だと思っています。
「サッカーが本当に好き」で「上を目指したい」と思っている子に来てほしいと思っています。
やっぱり、やらされているサッカーでは上手くならない。好きだからこそ自分から取り組めるし、チャレンジもできる。その気持ちがあれば、自然と成長できるんですよね。
3年後には「挑戦できる選手」になっていてほしいと思います。
「個人で打開できる選手を育てたい」
ーーー矢板SCではフィジカル強化にも力を入れていると聞きました。
高橋
はい。今、クラブ全体でフィジカル面の強化に取り組んでいます。
小学生の段階ではまだ身体が細い選手も多いですが、私たちは“将来どこまで伸びるか”という視点で見ています。
選手には月に1回、体成分分析装置「インボディ」で測定を行い、0.5kgずつの体重増加を目標にしています。これは全カテゴリー共通の方針で、継続的な身体づくりをクラブとしてサポートしています。
うちは平日は火曜・木曜に練習、土日は試合やトレーニングなどの活動があり、月・水・金は基本的に休みにしています。
食事を整えたり、学業に取り組む時間を確保しながら、しっかりと身体を休めることで成長を促すという狙いがあります。
ーーーどんな選手に育てたいと考えていますか?
高橋
個人で打開できる選手ですね。
「一人で二人を抜ける力」を育てたいと思っています。
一人でゴールを奪いに行ける、一人でボールを奪える。そうした“個の力”にフォーカスしています。各ポジションで特徴ある選手をクラブ内で育てて送り出せるような体制を作りたい。
そのためにも、自分たちの育成組織で質の高い選手を輩出していくことが目標です。
ただ組織的なプレーをするだけではなく、個人で局面を打開できる選手を育てることが、将来的な可能性を広げると考えています。
そして、最終的には高校年代でしっかり活躍できる選手を輩出するというビジョンのもと、矢板中央高校とも連携しながら育成を進めています。
ーーー試合に出るチャンスは、選手全員にあるのでしょうか?
高橋
今、私はU-13を担当していて、34人いるのですが、なるべく全員に試合経験を積ませるために、土日は毎週県内外で練習試合を組んでいます。
本数も多くなるのでスケジュール的には大変ですが、選手たちにとっては成長のチャンスだと思っています。
5月はJクラブと中心に組ませてもらい、6月は街クラブとやらせてもらっています。
関東リーグや県内の上位チームなど、なるべくレベルの高い相手と試合できるように調整しています。
U-13ではバランス重視ですが、14・15歳になると“勝負の年”になるので、A・Bの振り分けをして競争意識を持たせています。
選手たちも試合に出るために日頃からの競争を理解して取り組んでいます。
私たちのクラブには矢板中央高校があり、そこは日本一を目指しているチームです。
日々の練習や試合を見ることができるのは、選手にとってすごく刺激になると思っています。
私たち指導者も高校の現場に関わっているので、選手には「大会で勝つためには、日常から強い気持ちを持って取り組まなければならない」と伝えています。
日常の意識こそが、結果を生む原動力だと思います。
「人としての成長が強さにつながる」
ーーー矢板中央高校の生徒が中学生の練習に関わることもありますね。
高橋
キーパーは毎週、高校の選手が練習に参加してくれていて、技術や姿勢を間近で見ることで意識が大きく変わっています。
フィールドプレーヤーはなかなかそういう機会が少ないですが、昨年で言えば佐藤海風というキャプテンが、チーム全体に向けて「日本一を目指すにはどうするべきか」「人としてどう成長するか」という話をしてくれました。
高校生選手の言葉は、私たち指導者が言うよりも選手に響くと思います。
ーーー矢板SCに入る選手たちは、最初から意識や覚悟を持っているものですか?
高橋
いろんな地域やチームから選手が集まってくるので、最初はわからないことも多いと思います。だから最初から“覚悟を持っている”というよりは、時間をかけて一つにまとまっていくイメージですね。でも、その“時間をかけてまとまっていく”という積み重ねこそが、最終的に強いチームをつくる秘訣だと思っています。
もちろん最初はばらつきもあります。でも、それは悪いことじゃなくて、そこから一つの方向に向かって、ひとつずつ課題を改善していく。うちのクラブでは、最初から全部を求めるのではなく、“できないことを見つけて、直していく”というスタンスでやっています。
たとえば荷物の整理ひとつでもそうです。試合の準備でベンチ前に集まったとき、荷物がちゃんと整っていなければ一度戻して、きれいに並べ直させます。それは“当たり前のことは、当たり前にやる”という意識を持たせるためです。
プレーの上手さはもちろん大事です。
でも、それだけじゃ本当に強い選手にはなれないと思っています。小さなことに気づける、嫌なことでも率先してやれる、そういう人間的な部分がある選手が、最終的にサッカー選手としても人としても、大きく成長していくんだと信じています。
最後に
「やらされているサッカーでは上手くならない。好きだからこそ自分から取り組めるし、チャレンジもできる。その気持ちがあれば、自然と成長できる」
高橋コーチのこの言葉はとても印象に残りました。
矢板SCでは、個の技術だけでなく“人としての土台”にも丁寧に向き合いながら、選手一人ひとりの可能性を引き出す取り組みが行われています。
中高一貫の連携環境、全国を見据えた高い基準、そして選手としっかり向き合う日常。
そのすべてが、「3年後の挑戦できる自分」へとつながっているのだと感じました。
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