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子どもたちに知ってほしい!サッカーの裏方職業についてのまとめ。⑫代表料理人編

将来、子どもたちの職業の選択肢になるかもしれないサッカー選手以外の裏方の職業についての第12弾です。
実業之日本社から出ている『サッカーの憂鬱 2』(能田達規著)をテキストに、サッカーの裏方の職業をシリーズでお届けします。
今回は代表料理人についてです。代表料理人という職業について、少し深く掘り下げてみましょう。

photo:Quinn Dombrowski

CASE.12 あらすじ

場面は日本代表の宿泊するホテル。アジアカップ・インド大会グループリーグのさなかです。

「今日は勝負かけてますね」と選手が代表料理人に声をかけています。「大事な試合の前はライブで牛ヒレ焼いてパスタソースの種類も多い。俺にはわかってるんだ」という選手。

「ライブ」とは、選手の目の前で調理する「ライブクッキング」のことです。

試合は0対0からオウンゴールで負けてしまいますが…

代表料理人とは?

代表料理人とは、日本代表に帯同し、遠征や大会中のすべての食事を賄う料理人のことを言います。

選手の体調管理はまず日々の栄養から。試合前日の調整メニューから試合直後の疲労回復のための栄養補給までを一手に任される職業です。

それだけに責任も重大です。

集団食中毒が出れば、当然試合は棄権しなければなりません。

代表料理人が一番神経を使うといわれているのが、食中毒を出さないための衛生管理です。

そのために代表料理人が遵守しているのが、HACCP(ハサップ)です。「食品を作る過程における衛生管理の国際的な管理手法」と言います。

HACCPとは?

料理人の大敵は、料理を作る過程において食中毒や異物混入の原因となるような事態を見逃してしまうことです。

世界にはいろいろな国があります。水の衛生が日本ほど徹底していない国もあります。その中で食中毒や異物混入から選手を守るために、次のような工程が定められています。

・食材を扱う際には必ず手を洗う
・肉を切った包丁やまな板を洗わないで生野菜を切ったりしない
・加熱温度は十分注意する
・肉類と野菜類の管理場所を区別する

このほか、食物貯蔵管理や厨房の衛生管理、厨房で使う調理道具の取り扱いなどについて細かな規定が設けられています。

これは日本ではほぼすべて当たり前のことばかりです。

シンガポールなどではもっと徹底していて、肉を切ったりした包丁やまな板は、次の作業に使うまでたとえ短時間でも冷蔵庫に入れて管理するようです。きれいに洗ってあっても、調理中はいちいち消毒をしません。

食中毒菌が増殖するのを防ぐため、平均気温が27℃の厨房に置いておかないで、その都度冷蔵庫に入れるそうです。

ところが世界には、そういったことが常識でない国もあります。肉を切った包丁で生野菜を切ることがタブーとされていない国もあります。現地スタッフの手も借りて料理をしなければいけない現場では、その一つ一つまで代表料理人が目を配らなくてはいけなくなるのです。

たった一人がボウルを丁寧に洗わなかっただけで、あるいはごみを捨てた手を丁寧に洗わなかっただけで簡単に食中毒は起きてしまいます。その危険が起こらないよう、目を光らせていなければならないのも代表料理人の大事な仕事です。

とにかく水に注意する

水がきれいな国ばかりではありません。水からくる下痢などを起こさせないため、次のような注意をするそうです。

・生野菜のサラダ→洗って水を切った後、ミネラルウォーターで洗い流す
・豆腐→ゆでて殺菌してから冷やす(豆腐の中に含まれる水も現地のもののため)
・氷→使わない
・冷やしうどん→ゆでたあと、凍らせたミネラルウォーターのペットボトルを入れて冷ます。水にはさらさない

歯磨きのあとの口をゆすぐ際も、ミネラルウォーターを使うようにスタッフが選手に言うこともあるそうです。

日本代表が、どんな国へ行っても元気に試合のピッチへ入場してこられるのは、この徹底した衛生管理のたまものなのです。

職人の世界の難しさ

代表料理人は、海外のホテルへ入ってそのままそこの厨房を使わせてもらわなくてはなりません。コミュニケーションもおぼつかない状態で、相手のテリトリー(縄張り)の中に入っていきなり指示をしたり、設備を使わせてもらったりしなければならないのです。

時には、その国の風習を無視したようなこともしなければなりません。イスラム教を信じる人々には豚肉が禁忌なことは有名ですが、そこに滞在する間、豚肉料理をすべてなしにするということも難しいのです。

日本代表の代表料理人を長年務めた西 芳照さんは、「中学生程度の英語しか話せない」と言います。その英語力では現地スタッフとのコミュニケーションは正直に言って難しいと思われます。

西さんは、「厨房に入ると、まず包丁を握って作っているところを見せ、料理の実力を知ってもらうことから始めるようにします」と言います。料理人は職人です。職人は腕で勝負するのです。生半可な腕では務まらない職業です。

1位は照り焼きのたれ、2位は唐揚げ、3位はラーメン

これは、西さんが「教えてくれ」と海外のスタッフに頼まれる料理のナンバー3です。日本食人気にも支えられて国際交流がスムーズにいく例もあるようです。

試合が終ると選手はユニフォームを交換することがありますが、代表料理人はそのホテルのシェフと包丁を交換することもあるようです。

イタリアのクラブでは、試合後のバスの中で温かいパスタが出たり、アイスクリームが出たりするようです。各地の情報は、良いと思われれば日本代表のメニューに取り上げられるので、試合後のバス内パスタも、アイスクリームも現在は日本代表の定番となっているようです。

高地順化の鍵を握った食事

ワールドカップ南アフリカ大会の際、1次リーグ会場の3か所のうち、2か所は標高1400~1500mの高地にありました。

高地の敵は、主に3つあります。

・貯蔵鉄の不足による貧血
・糖質の消耗が早いこと
・酸化ストレス

体内に蓄えられている鉄は、高地では消耗しやすいのです。ヘモグロビンの生成が減少することにもかかわってきますので、貧血のリスクが高まります。

糖質は、持続力を保持するのに欠かせません。高地では、体内のブドウ糖濃度が高まるので、普段よりも多くの糖質が消耗されます。

高地では、活性酸素も平地より多く発生します。活性酸素が体に与えるストレスが、選手のストレス処理容量を超えてしまうと平常よりも疲労がひどくなります。筋肉損傷の可能性も高まります。

このため、代表料理人が考えたのが、「鉄分増強」「糖質補強」「ビタミンEをはじめとする抗酸化物質の摂取」(活性酸素の害を取り除く効果があります)でした。

また、標高が高くなって圧力が低くなると、ご飯がうまく炊けない(沸点が下がるため)という現象が起こります。これには、圧力鍋を南アフリカで調達し、ご飯を炊くという方法が使われました。

この試行錯誤の結果、日本は見事グループリーグを突破し、決勝トーナメントに進むことができたのです。

「24番目の日本代表」

代表料理人、西さんのシェフコートは、胸に日本代表のエンブレムが入っています。そして、「24」のナンバーも。

ワールドカップドイツ大会の時に作られたというシェフコートは、「西さんは24番目の日本代表」という意味です。

日本代表が活躍し、持っている力を発揮するために欠かせないのが代表調理人なのです。

代表料理人になりたいジュニア選手のために

日本髄一といわれる西さんも、普段はJヴィレッジで働くシェフです。代表料理人を目指すなら、まず調理師免許を取得し、経験を重ねることが必要です。

調理師の免許を取り、料理人として長年の経験を経て声をかけられるパターンしか今のところありません。サッカーと食に関する仕事なら、Jクラブチームの寮で若い単身者の選手たちの食事の世話をする仕事もあります。

こちらの場合は、管理栄養士の免許が必要なところがほとんどです。

調理師の免許を取るには

調理師免許を取得する方法は3つあります。

1.調理師学校で1年以上勉強し、卒業すること(無試験で免許取得可能)
2.飲食店などで2年以上実務を積み、調理師試験に合格すること(受験が必要)
3.高校や短大の調理科を卒業すること(無試験で免許取得可能)

調理師の専門学校もあります。中学校卒業から入学資格が得られます。調理師専門学校には、各種業界からの求人も来るため、海外留学のチャンスを欲していたり、もっと上位の資格が取りたい人は調理師専門学校へ行く方が近道です。

調理師専門学校へ行くのに、年齢の上限はありません。大学を卒業して社会人になってからでも一念発起して調理師免許を取ろうとする人はいます。夜間のコースもありますので、働きながらの取得も可能なようです。

免許を取得したあと、実際に下積みとして働くことになります。職人の世界ですから、いきなり包丁を持たせてもらえるということはないようです。

栄養士・管理栄養士の免許を取るには

管理栄養士は、栄養士の上位資格です。この二つは、実際に調理を行う調理師と比べて高度な調理技術は求められませんし、プロフェッショナルな調理もできません。

栄養学に基づいた献立作成ができるのが栄養士で、上位資格の管理栄養士になると病気治療のための栄養指導、アスリートのための栄養指導、実際の調理などを行うことができます。

調理師が、専門によってフランス料理や中華料理などの専門的な調理も行えるのに対し、栄養士や管理栄養士が作る食事は家庭料理の延長線上にあるものとなります。

栄養士になるには、大学や短大、専門学校の栄養士養成課程を修了することが必要になります。試験はありません。卒業と同時に都道府県から免許証が交付されます。

上位資格である管理栄養士は、国家資格です。

1.栄養士として実務経験を積み、受験する(勉強した期間と合わせて5年間が必要です)
2.大学や4年生専門学校の管理栄養士養成施設を卒業して受験する

という2つの方法があります。管理栄養士養成施設としての大学は、2015年度現在日本に131大学があります。専門学校は22と、大学に比べて少なく、就職率も大学卒のほうが良いようです。

参考文献

『サムライブルーの料理人 サッカー日本代表専属シェフの戦い』(西 芳照 著、白水社 2011年5月)

『サムライブルーの料理人 3・11後の福島から』(西 芳照 著、白水社 2014年5月)

「サッカー日本代表専属シェフの戦い」には中澤選手もお気に入りだったペペロンチーノをはじめとする日本代表のレシピ集が、「3・11後の福島から」には福島郷土料理集が収録されています。トルシエ監督が命名した「マミーすいとん」の作り方も載っています。

最後に

「偉大な思想は胃袋から生まれる」という格言があります。まず胃袋をしっかりと満たすことによって思考する余裕が生まれてくるという意味の格言らしいです。

偉大なプレーも胃袋から生まれます。腹を透かしていても壊してもプレーは生まれることができません。その意味で、サッカー日本代表選手にとっての代表調理人は母親に劣らない存在だということができるでしょう。

ジュニア選手にとっての母親も、大事な代表料理人です。毎日のご飯作り、大変だと思いますが頑張りましょう!

寄稿者プロフィール

JUNIOR SOCCER NEWS統括編集長/事業戦略部水下 真紀
Maki Mizushita
1974年生まれ。群馬県出身、東京都在住。フリーライターとして地方紙、店舗カタログ、webサイト作成、イベント取材などに携わる。2015年3月からジュニアサッカーNEWSライター、2017年4月から編集長、2019年4月から統括編集長/事業戦略部。ジュニアサッカー応援歴14年。

第98回高校サッカー選手権予選を最後に息子が引退。
高3の11月から受験生になりました。
高校2年生の保護者の方がもしここを見ていたら、
「たったの2か月でセンター爆上げは無理だから今からがんばれ」と
お子さまに教えてあげていただきたいです…

まだ小学生、中学生のお子さんをお持ちの皆様がうらやましいです。
今しかない瞬間、親も楽しんじゃってください!

サッカーにかかわるすべての人を応援しています。

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