Green Card ニュース

アマチュアサッカー情報を中心に結果速報や進路情報を掲載

子どもたちに知ってほしい!サッカーの裏方職業についてのまとめ。⑨チームドクター編

将来、子どもたちの職業の選択肢になるかもしれないサッカー選手以外の裏方の職業についての第9弾です。
実業之日本社から出ている『サッカーの憂鬱』(能田達規著)をテキストに、サッカーの裏方の職業をシリーズでお届けします。
今回はチームドクターについてです。チームドクターという職業について、少し深く掘り下げてみましょう。

photo:Frederick County Public Libraries

CASE.9 あらすじ

場面はドバイのグラウンド、アジアチャンピオンズカップの決勝トーナメント真っ最中です。日本の選手がスライディングに足を取られ、転倒しました。動けません。

グラウンドへ、チームドクターが駆け寄ります。

転倒した選手の診断結果は「内側側副靭帯損傷」でした。チームドクターは選手に「もう試合に出せない、日本に帰れ」という通告をしますが…

「ドクターストップ」は重要な仕事

チームドクターとは、そのチームに雇われ、試合時のケガなどの処置や診断、治療に従事する医師のことです。

通常の医師の診療と大きく違うところ。

それは、「目の前で選手がケガをすることがある」ことです。

普通の診療では、外来患者のケガをしたときの様子は見られません。「どうしました?」と聞いた話から原因や状況を推測することによって診療の助けとするようです。

選手に障害が発生したら、誰よりも早く駆け寄って診察を行います。これは、ケガの処置を急がなければならないからという側面も確かにあります。が、一番大事なことは「この選手は試合続行できるかどうか」の判断を誰より素早く下さねばいけない、ということです。

これが「ドクターストップ」です。

選手生命か、目の前の試合か

チームドクターに求められることは、大きく3つあるようです。

◆競技についての深い知識、アスリートの心理への深い理解

実際、サッカーのチームドクターとして活躍されている方は、ほとんどが学生時代にサッカーをやっていたという方のようです。

◆高い経験値と豊富な学術知識

いうまでもありませんが、誤診や間違った治療は選手生命を縮めます。これは、チームドクターだけではなく医師全員に求められることです。

◆診断から手術までが可能、また、大学病院や技術の高い先生へのルートがあること

選手の診断、治療、手術を一人ですべて行う方もいらっしゃるようですが、自分の手に余る、もしくはもっといい先生に診てもらったほうが良いとの判断をすることも当然あります。

そこで、よりよい設備や環境、技術などを持っている場所や人とのルートを持っているか、そこに紹介できるかが問われる場合もあるようです。

選手は「試合に出たい」

試合中にケガをした場合、あるいは練習中や試合中に体に違和感を感じる場合でも、選手は試合に出たいものです。自分が活躍するチャンスがあるならチャンスを最大限生かしたいと思うのはプロではないジュニア選手も持っている気持ちです。

そこで起こるのが、「ケガ、あるいは不調を隠す」ということです。ケガや不調を隠すことは、大きな事故につながる可能性があります。そんなこと、選手だってわかっています。けれども、目の前の試合に出たいという気持ちは消せるはずがありません。

ドクターは「選手生命が優先」

チームドクターのかけるドクターストップは、大事に至らない事前にかけるストップです。ドクターも競技経験や選手経験がある方など、選手の心理についてはよく理解しています。

それでもやはり、優先すべきは選手の体であり、選手生命です。恨まれることもあるでしょうし、選手の心理も理解できるためにつらい局面もあるとは思いますが、選手のことを第一に考えればこそ下してくれる決断、それがドクターストップです。

チームドクターの日常

チームドクターと言っても、毎日朝から晩までチームに帯同しているわけではありません。大方のチームドクターは、週4日チームに帯同、週3日は病院(市民病院や大学病院などさまざまです)などの勤務体勢を取っているようです。

「あれ、1週間ずっと?」と気が付いた方、正解です。アメリカンフットボールやラグビーなど、さまざまなスポーツにチームドクターはついていますが、「1日勤務しても、1回の当直代(病院)にもならない」という場合も多いようです。

チームドクターの世界で一番恵まれているのはJリーグだと言います。体制が整っているのに加え、指導者講習などでケガや故障についても指導者や監督が知識を得ています。そのため、治療への協力も得やすいのだとか。

チームドクターの報酬についてはこちらを参考にしました。
社会人アメフトXリーグ IBM BIG BLUE チームドクター谷口浩人先生の活動報告(参照サイト:東京女子医科大学整形外科教室)

チームドクターの仕事

2008年からサッカー日本代表のチームドクターをしている清水邦明先生の活動が紹介された記事があります。

それによると、チームドクターの仕事は合宿、練習、試合などにおける

・外傷が発生した時の処置、診断
・個々の選手のメディカルチェック
・内科疾患に関する投薬
・サッカーヘルスメイトの管理

などが主になってくるようです。

サッカーヘルスメイトって何?

サッカーヘルスメイトとは、サッカー選手のカルテのようなものです。外傷・疾病の記録などの医学情報を記入したカルテで、ユース年代を含む代表選手とJリーグに所属している選手は全員持っています。

代表チームは、それぞれの選手の所属チームから選手を「招集する」という形で選手を集め、トレーニング、合宿、試合を行っています。全てが終了して選手をチームに返すときに、来たときよりもコンディションを悪くして返すわけにはいきません。

選手の普段の健康管理や今までの病歴、外傷歴も合わせて把握しておくことがチームドクターの大切な仕事です。

参照記事はこちら
サッカー日本代表チームドクター 清水邦明先生(参照サイト:日経メディカル)

国際大会の苦労

代表チームのドクターになると、国際試合が発生します。国際試合の苦労はどういうものでしょうか。

オリンピックなどにおいては、選手村の日本選手団宿舎の中に医務室を設置します。医薬品は日本から持ち込みます。

オリンピック開催前には、次のようなことに気を配る必要があります。

・JISS(国立スポーツ科学センター)で行われた選手のメディカルチェックの結果を確認、問題点が解決されているか確認
・選手全員の医学的データを選手村に持ち込む
・監督・スタッフを含む全員に健康調査票の配付、持病や常用薬の確認
・開催国で医療行為を行うための申請(開催国政府に対して行う)
・持ち込む医薬品や医療機器を準備、リストにして開催国政府に許可を取る

参照記事はこちら
小松裕の「スポーツドクター奮闘記」(参照サイト:ITmedia エグゼクティブ)

オリンピックは選手村が作られますからこのような感じになりますが、海外遠征の場合は選手村はありません。『サッカーの憂鬱』では、

・選手やスタッフの水や食事のチェック
・感染症対策
・感染症に罹患した時の移動、隔離方法、食事などすべてのマニュアル化

などが上記に加えて記載されています。

海外遠征:事前に打つワクチン

海外遠征は、感染症予防のためコーチや監督などスタッフ全員を含めて予防接種を行う必要があります。本で紹介されているワクチンは、

・A型肝炎
・B型肝炎
・ポリオ
・麻疹
・インフルエンザ
・破傷風

などです。また、このほかに地域性のもの、マラリアのようなものなども遠征先によっては打つ必要があるようです。

お子さんが3歳までの予防接種ラッシュのように、一つのワクチンを打つと、次のワクチンを打つまでには時期を空ける必要があります。3種類を一度に打つことができるのですが、1度打ったら3週間は空けないといけないようです。

「緊急招集」が行われると、あわただしいのは選手だけではなく、チームドクターも相当あわただしくなるようです。

チームドクターになるには?

チームドクターを目指す医学生も増えているようです。チームドクターはれっきとした医師。医師免許が必要です。医師免許を取得した後、まずスポーツドクターにならなくてはいけません。

医師になる方法

まず、大学の医学部に入学し、6年間の就学を終えた後国家試験を受け、合格しすることが必要です。

スポーツドクターになる方法

医師免許取得後、4年間の医師としてのキャリアを経て、日本体育協会加盟団体(都道府県体育協会、中央競技団体)から推薦を受け、日本体育協会が開催する養成講習会を受講します。

養成講習会を終了するには、最短2年かかります。欠席すると認められませんので、欠席をした分は翌年以降受講することになります。

チームドクターになる方法

スポーツドクターとして登録し、経験を積んだのちに紹介や募集などを経てチームや協会と契約し、チームドクターとして働きます。

スポーツドクターになるまでに最短で医学部卒業後6年、チームドクターになるにはさらに経験が必要です。

さらに詳しく知りたい方はこちらをどうぞ
スポーツドクター(日本体育協会HP)

チームドクターになりたいジュニア選手のために

チームドクターになりたかったら、まず医師になる必要があります。医学部に入学することが必要ですが、医学部に入学するのはかなり難しいです。サッカーもそうですが、勉強も一生懸命やってください。

行く大学を決めよう

医学部は日本全国にたくさんありますが、大学によって得意分野が違います。気になるチームがあったら、チームドクターの出身大学を調べておくとよいでしょう。代表的なところでは、順天堂大学、帝京大学、東京大学、慶応義塾大学、筑波大学などの名前が挙がります。

地方ですと、圧倒的にその地方にある国公立大学出身者が多いところもあります。どのようにチームドクターをやっていきたいのかをしっかり決めたうえで志望大学を決めてください。

専門は「整形外科」が多い

医学部に入ると、在学中に自分の専門科を決める必要があります。ジュニア選手になじみが深いのは「小児科」だと思いますが、スポーツドクターに多いのは「整形外科」です。

順天堂大学のように、「スポーツ診療科」などの科が設けられている大学もあります。

こんな人に向いています

チームドクターは選手にドクターストップをかけられる唯一無二の存在です。

さまざまな事情を考え併せて冷静に判断することが求められます。また、医師は専門職となりますので深い知識欲、好奇心、勉強をしたい心は必要です。医師は一生勉強です。勉強が好きな人でないと務まらないようです。

チームドクターになりたい、スポーツドクターとして選手の役に立ちたい、という人は、自分がユース年代などに大きなケガや故障をしてしまって競技人生を断念した方が多いと言います。

競技を良く知っていれば、選手にできるアドバイスが変わってきます。そのため、大学医学部あるいは医大などに進んだ後も競技を続ける人も少なくありません。

「医者を目指すなんて、大変だ!」と思うジュニア選手もいるかもしれませんね。でも、医師は命を扱う職業でもあります。楽な道を選ばず、一生懸命やってくれる人でないと、安心して自分の体と命を預けることはできないと思いませんか?

大変ですが、やりがいも大変大きい仕事だと思います。

最後に

医師と言えば白衣のイメージが強いのですが、試合などを見ると、チームドクターは常にジャージでベンチに座っています。

実際のケガの瞬間を見逃さないことも大事ですが、走り方がおかしくないか、疲労がたまりすぎていないかを心配する目線は、ジュニア選手の保護者のそれによく似ていると思います。

「俺はプロになりたいから、医者なんて…」という子も多いと思いますが、引退後、スポーツドクターとして活躍するのも一つの方法です。実際、元プロ選手で引退後にドクターになった方もいらっしゃいますよ。

いろいろな可能性があるのがジュニアの大きな魅力です。頑張ってくださいね!

寄稿者プロフィール

JUNIOR SOCCER NEWS統括編集長/事業戦略部水下 真紀
Maki Mizushita
群馬県出身、東京都在住。フリーライターとして地方紙、店舗カタログ、webサイト作成、イベント取材などに携わる。2015年3月からジュニアサッカーNEWSライター、2017年4月から編集長、2019年4月から統括編集長/事業戦略部。2023年1月からメディア部門責任者。ジュニアサッカー応援歴17年。フロンターレサポ(2000年~)

元少年サッカー保護者、今は学生コーチの親となりました。
見守り、応援する立場からは卒業しましたが
今も元保護者たちの懇親会は非常に楽しいです。

お子さんのサッカーがもたらしてくれるたくさんの出会いと悲喜こもごもを
みなさんも楽しんでくださいますように。
Return Top